久しぶりに新型コロナ関連の記事を書きます。
全国的にも新型コロナの患者が減ってきていて、自分の病院でも入院患者数がペースダウンしてきた印象です。実際、ICUに入室してくる患者も最近はかなり減りました。
ワクチンの効果なのか、ウイルス自体が弱ってきたのか、どっちにてもこのまま収束へ向かってくれることを期待します。
COVID-19 治療のトレンド


さて、新型コロナに対する治療も最近はかなり確立していきて、最近では効果的な薬剤にもエビデンスが集約しているようで、使用する薬剤もかなり限られてきています。うちのICUでも新型コロナ患者への治療はほとんどテンプレート化してきた感じですね。
今はステロイドとヘパリン、レムデシビル、それに内服のパリシチニブを使うのがトレンドになっています。細菌性肺炎など合併している場合はあれば抗生剤の投与が行われています。
そして、何と言っても今一番熱いトレンドはこれです。
COVID-19 腹臥位療法

腹臥位療法って??
「腹臥位」(伏臥位ともいう)とはなんぞや??
側臥位は病棟でもよくやりますね、仰臥位は仰向けに寝てるだけです。ファーラー位、坐位は座ってる状態。そして、腹臥位はうつ伏せです。
患者をうつ伏せ???
これは一般病棟でもやってる人は少ないんじゃないでしょうか。点滴やバルーン、ドレーンが入ってるとまず患者が自分で動いてこの体勢になることはないと思います。
正直、自分も新型コロナ患者を腹臥位にするまでは看護の教科書でしか見たことなかったです(笑)
でも実は患者をうつ伏せにさせるという立派な救命措置の手法なんです。低酸素になった患者の血液中の酸素量を増やすことから、急性の呼吸器不全を起こした人に昔から行われていたんですね。
腹臥位療法の効果は??
新型コロナで起こる重症のARDS(急性呼吸窮迫症候群)にも効果があるとして、見直されているというわけだ。実際、「新型コロナの診療の手引き」でも、ICUに入院するような新型コロナ重症肺炎に対して、「効果あり」と明記されています。
うちのICUでも第3波~第4波が始まったあたりからICUに入室する入院患者に腹臥位療法を実施しました。
やり方は「夕方の夜勤交代時にうつ伏せにして、朝になったら仰向けに戻す」というものです。自分で動けない患者が多いため、褥瘡予防に頻回な除圧が必要が必要になります。腹臥位療法を行っている時間は16時間ほどです。
重症の新型コロナの最後の手段はECMO(体外式膜型人工肺)です。ECMOは肺に代わってガス交換を行う装置で、ダメージを受けた肺を休ませてあげて、その間に呼吸機能の回復を図るために用います。ARDSにはとっても有効な治療ですが、様々な合併症も起こります。また、医療資源の制限もあって簡単に使うことが難しい状況です。なのでECMOを装着せず、人工呼吸器だけで回復できるというのが、腹臥位療法の最大の効果だといえます。
腹臥位で呼吸状態が改善するメカニズム
ここで肺という臓器の役割から。
肺は呼吸によって入ってきた酸素を血液中に取り込み、血液が運んできた二酸化炭素を放出している臓器です。この「換気」を行っているのが肺胞というブドウみたいなやつ。肺が炎症を起こすことで肺胞は潰れるため、この換気が阻害されてしまいます。ベッドで仰向けの状態でいると、重力の関係で水分や血液が背中側に溜まってしまうことで、背中側の肺胞がますます潰れてしまいます。
この状態が呼吸不全です。
その状態を改善するのが「腹臥位」というわけです。うつ伏せになることで背中側の潰れた肺胞が開き、換気機能が改善されるのです。
実際、患者がうつ伏せになるだけで血中酸素飽和度が改善するケースが多いです。SpO2が90%前半しかなかった患者を腹臥位にしただけで95~96%と目に見えて改善することが多いです。
他にも腹臥位のメリットがあります。
それは人工呼吸器の装着によって起こる「人工呼吸器関連障害」を防げます。
肺胞が潰れているとそこには酸素が入らず、残りの肺胞に集中的に酸素が送り込まれます。その結果、残った肺胞が膨らみすぎてダメージを受けてしまうことがあります。
新型コロナの患者は肺の線維が進んでいてパリパリだったりします、中にはこれが原因で気胸になる患者もいます。
うつ伏せになると背中側の肺胞も開くため、肺全体に酸素が行き渡り、これによって人工呼吸器関連障害を防ぐことができるのです。
腹臥位のデメリット

良いことだらけの「腹臥位療法」ですがもちとんデメリットもあります。
気管挿管され人工呼吸器装着中の患者は鎮静剤によって寝かされています。そういう状態の患者の体位を変えるのは容易ではなく、挿管チューブが抜けたり、点滴のルートが抜けたりとリスクが高いです。
1人の患者につき、数人がかりで20分ほどかかります。この刺激で覚醒してしまい、呼吸器とファイティングしてしまう患者も多く、いかに鎮静をしっかり効かせた状態で行うかがポイントになってきます。
さらに患者は意識がないため、自分で動いて除圧することが困難です。痛くても訴えることもできません。なので褥瘡を作らないように定期的に体位を変え除圧するなどのケアが必要になります。
何より、安全にうつ伏せにさせるには、技術と経験が必要だと思います。
今後、「腹臥位療法」が標準化され安全な腹臥位の行い方のエビデンスが集まることを祈ります。
腹臥位療法の今後

最新の学会で高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)を要する新型コロナ重症患者において、覚醒下で「腹臥位療法」を行うと死亡または気管挿管への移行率が14%低下したことが分かったそうです。
今までは人工呼吸器装着患者に実施していた「腹臥位」ですが、今後は中等症の新型コロナ患者にも積極的に行い、重症化を未然に防ぐ効果が期待されそうです。
自力でうつ伏せになれる中等症患者への腹臥位療法は、眠らせた状態で人工呼吸器を使っている重症患者とは違って、看護師の労力はそれほどいらないのが魅力的ですね。
うちのICUでもHFNCの患者に試してみましたが、意識のある患者に2時間うつ伏せでいてもらうのは結構大変でした。たぶん、自分がうつ伏せで長時間寝てろって言われても難しいですよね…(笑)
首の位置や手の位置を少しずつ変えながら、苦痛ができるだけ生じない格好を患者と一緒に模索し、出来るだけ長時間うつ伏せでいてもらえるようにします。
患者は自分で動けるので、痛かったりしんどかったら少しずつ身体を動かしてもらえるので看護師の苦労は人工呼吸器の患者よりはるかに少ないです。
ウイルスは潰れた肺胞で増殖しやすいという仮説もあり、腹臥位で新型コロナの重症化が防げる可能性は十分になると思います。
一人でも重症化する患者が減るといいですね。ではまた。



